実業で福祉の世界を支えたい
~プロファウンドが取り組む新しい支援の仕掛け~

今年1月、新たに設立されたプロファウンド株式会社。福祉の業界に新たな風を吹き込もうとしている。事業ミッションは、障害福祉分野に特化した新たな事業の創造。

代表取締役の関原深さんは、2007年に株式会社インサイトを創業。以来、障がいのある方・関わる方全てが幸せになる「場の創造」をミッションに、障害福祉に関わる事業所へのコンサルティングや研修事業を行ってきた。就労継続支援B型事業所向けの工賃向上や就労継続支援A事業所向けの経営改善など、対象エリアは全国にわたり、様々な現場を支えてきた。

2009年からは北野喬士さん、2011年から高玉要さんがメンバーとして合流。関原さんは経営戦略やマネジメント、北野さんは障害福祉、高玉さんはWebマーケティングや営業・広告戦略など異なる強みを持つ3人コンサルタントのチームとなった。

凡事徹底。
関原さんがずっと大切にしてきたキーワードだ。

「ありがたいことにいろいろなご縁をいただいて、1年間で200事業所を超えるコンサルティング、500件を超える事業所へ研修をさせていただけるようになりました。毎日毎日、コンサル先に伺って、一緒に考えての繰り返しの中で、どんなコンサルよりも“現場を観る”という経験をさせてもらってきました。」

とにかく現場に足を運び、しっかりと話を聴く。場合によっては、夜の飲み会で延長戦。それを愚直に繰り返し、丁寧に相手に合わせた支援をしていくことで現場が少しずつ、しかし確実に変わっていく。創業以来、基本はその繰り返しの日々の中で、多くの福祉事業所の成長・発展に関わってきた。

この13年間、ずっと順調満帆だったわけではもちろんない。誰にも言えない苦しさも、だからこそ沁みる人の暖かさも感じてきたという。そんな日々を支えてきたのは、派手なキャッチコピーや奇想天外なビジネスモデルではなく、コツコツと淡々と、実践を丁寧に積み重ねていくというただ一点だった。

そして13年目を迎える今、関原さんは新たなチャレンジをすることを決めた。今まで培ってきたコンサルティング力やネットワークを存分に活かしつつ、福祉業界に新しい「実践」のしくみを提供する取組みだ。

実は関原さんは株式会社インサイト創業時から「実業」をやりたい、コンサルタントとして経営や戦略のサポートをするのみならず、「お客さんと一緒に挑戦したい、動きをつくっていきたい」という想いがあった。
※参考:インサイト創業の志「真っ当に頑張る人が真っ当に評価される社会に」
https://npo-kigyo.net/2017/03/04/会報誌「aile」vol-64/

コンサルティングだけではできない貢献と投資へ

プロファウンド株式会社では、コンサルティングのみでは実現できない障害福祉業界への貢献と投資を行っていく。現在、予定しているのは次の3つの事業だ。

  • エシカル民泊事業
    民泊の清掃業務を障害福祉事業所が担うことで、経営改善・工賃向上を実現する
    (プロファウンドはFCerとして事業モデルを提供(場合により民泊オーナーも実施))
  • BPO(Business Process Outsourcing)事業
    全国の福祉事業所で対応する、民間企業からの大型共同受注モデル
    (プロファウンドは事業所紹介や業務訓練、経営顧問、事務代行等を行う)
  • あすくプロ事業
    経営者や現場の職員が専門家に気軽に相談できる仕組みづくり
    また、障害福祉従事者が専門家となって他を支えるスキルマーケット構築

世の中には、障がいを持った方が活躍できる仕事がまだまだある、と関原さんは断言する。「これはもう、ホントにあるんです。ただ、その時に仕事を請け負う側(福祉事業所)も“今自分たちにできること”だけにとどまらず、買い手が喜ぶ仕事を利用者と一緒にどう対応していくかいう視点が大事。福祉事業所だから、ということではなくて、価値を提供するパートナーとして評価されることで、仕事はどんどん広がっていきます。」

民間企業も、よい仕事をしてくれる人材を求めている。例えば清掃業務においては、なかなか人材が集まらず企業も苦労しているという。「障がいをもった人たちが質の高い仕事を請け負っていくことで業界全体の活性化にも寄与できるし、業界のイメージも変わっていく。ゆくゆくはそんなことをイメージしています」と関原さん。

単にマッチングをするということではなく、働く方々の障害特性の見極めと、それにあった業務の切り出し方、業務フローの組み方、人材育成のノウハウ、そうしたものをパッケージとして広げていくことができるのがプロファウンドの強みだ。現在は、清掃業務、農業、気象観測など、様々な分野での展開を構想している。

もう一つ、プロファウンドでは、福祉事業所の現場の「ちょっとした悩み」を解決する取組みも行っていく。「コンサルタントとして各地を回っていると、経営者も現場の職員のみなさんも、“ちょっとした悩み”を抱えていらっしゃる、と気づいたんです。わからないことがあっても、特に小さな事業所だと誰に訊いたらいいのかわからない。じゃぁ、スーパーバイズを受けるとなると大げさになって緊張もする。そういう中で止まってしまったり、遅れてしまったりすることが山程あるな、と」。

あすくプロ事業は、全国の事業所と様々な分野の専門家をオンラインでつなぎ、ちょっとした困りごと、ちょっとした質問を解決していく事業。「福祉の世界は、もともと業界全体として教えあう文化がある。それを仕組みにしていくと同時に、専門性をもった人材が一つの法人だけでなく他の法人の支援をすることでスキルを売ることができるようになる。これは業界全体のキャリアパスのあり方としても、新しい取り組みだと思います」。

こちらもゆくゆくは、福祉に関わる様々な専門家や家族の方々にもすそ野を広げていきたいという。また、こうしたノウハウが蓄積されていけば、共通の困りごとを抽出し、botで対応できるようにすることで全国の福祉事業所の支援力の底上げにつながる。その先には世界への貢献も視野に入れているという。「日本の福祉は世界的に見ても進んでいると感じます。その現場の経験・知恵と相談システムのパッケージを組み合わせることで、全世界に発信できるコンテンツになるのではないかと思っています」。

プロフェッショナルな仲間とともに

関原さんとともにプロファウンドを立ち上げた仲間たちも、新しい取り組みに燃えている。

北野さんは学生時代から障害者支援ボランティアに携わり、卒業後すぐに仲間とともに障害者福祉事業で起業、以来20年以上の経歴を持つ。支援現場にも、現場の人材育成にも精通した存在であり、またインサイトでのコンサルタントとしての経験も10年を超えた。できない自分を越えていくことが楽しいと語るチャレンジ精神の持ち主で、福祉現場の実践者でありながら、広い視野で俯瞰することもできる人物だ。

高玉さんはWebマーケティングの専門家であり、またホテル・民泊の営業代行会社の代表でもある。趣味の音楽活動では障がいのある仲間との演奏活動も行っている。「ずっと音楽活動では障がいのある仲間と一緒に活動していたけれど、彼らの仕事がどうなっているのかなんて考えたこともなかったんです。障害福祉業界の工賃の実態を知り、知ってしまった者として引き返せないなと思いました」と熱く語る。

今回のプロファウンドの設立においても、3人のそれぞれの強みが活かされていくことだろう。「インサイトを立ち上げたときは、こんな風に仲間と一緒に新しい会社を立ち上げるなんて考えてもいませんでした」と関原さん。すかさず、北野さん、高玉さんが「いや、困ってるんや、この業界をこのままにしておいてええんか?手伝うやろ?って半ば強制でしたから(笑)」と笑う。その呼吸は絶妙だ。それぞれ、福祉事業所のコンサルタントとして活躍するまでの道のりは異なるけれど、福祉の業界を変えたい、底上げしたい、そうすることで一人ひとりの暮らしと未来を支えたいという気持ちは共通だ。インタビュー中も笑い声が絶えず、その明るさと軽妙さの中にメンバーが信頼感を持ち、互いを尊敬しあっていることが伝わってくる。

プロファウンド株式会社の描く物語の主人公は、決して彼ら自身ではなく、地域で頑張る事業所や働く人々だ。その舞台を具体的につくり、様々な個性が輝くように仕掛けていく黒子的プロデューサーがプロファウンドなのだ。
たくさんの現場を見てきたからこそわかる大きな課題や傾向と、丁寧に一つ一つの事業所、一人ひとりの経営者に向き合ってきたからこそわかる日々の積み重ねの大切さ。その両方の経験を財産に、とことん“面白くてわくわくする”ことに、どこまでも真面目に真剣に取り組もうとしている。

プロファウンドとは「深遠な・奥深い」という意味を持つ。「深」という漢字は、流れる水と母の胎内から赤子が取り出される様子を象形しているという。よどまず流れ続ける中から新たな命が生み出されるというイメージは、関原さんたちの新たな取り組みになんとふさわしいことか。その一歩を心から応援したい。

(取材・文:特定非営利活動法人起業支援ネット 久野美奈子)